「フォーチュン・クエスト」シリーズ完結に寄せて


令和2年7月10日、平成元年から続くファンタシー小説、「フォーチュン・クエスト」シリーズがついに完結した。

この物語との出会いは、確か中学2年生。同じ部活に所属し、仲のよかった友人が「フォーチュン・クエスト」シリーズのファンで、勧められたことがきっかけ。彼女の推しキャラはトラップ、そして彼の曽祖父であるランド。私も彼女の影響を受けている。

 

「いまでないとき、ここでない場所。(中略)彼らの目的は……まだ、ない。」
フォーチュン・クエストシリーズの冒頭文。この文章を初めて読んだとき、とてもわくわくしたこと、今でもよく覚えている。一瞬で、パステルたちのいる世界に心が引き込まれた。

元々私は子どものころ、活字があまり得意な方じゃなかった。作文なんかは憂鬱でしかなかったし、学校でよくある「朝の読書の時間」なんかも好きではなかった。そんな私は、フォーチュン・クエストに出会ったことで、今まで根強くあったはずの活字に対する苦手意識が、どっかへ消え去っていった。受験や就職、その他の理由で離れていた期間もあるけれど、どんなに忘れていても、ある時唐突に、頭の奥で6人と1匹がひょっこり顔を出してくる。そしてそこには14歳の私も一緒にいて、大人になった私にパワーをくれる。
約15年間、私に大きく影響を及ぼした、大切な物語。

 

そんな思い入れのある物語の最終巻、意を決して表紙を開いた。
大好きな冒頭の文章は、最終巻仕様だった。本当に終わるのだ、と、ここでいよいよ実感が沸いた。

最終巻も、重さと軽さがいい塩梅の、いつものフォーチュン・クエスト
THE ENDの文字を見たとき、これ以上はない終わり方だと、感無量だった。

 

 

 


…さて、ここから先は最終巻のネタバレを含みます。
パーティのメンバーごと綴った感想や考察(というほどたいそうなものではない)です。
さくさくと、思っていることを書きます。

 

 

 

 

■シロちゃん

ほんともう健気でいい子でとにかくかわいい。褒めるしかできない。どんなに苦手なことでも大変なことでも、6人のために「がんばるデシ!」ってなってくれるシロちゃんに、何回も心を打たれた。ガトレアパレスの一件、苦手な匂いなのに頑張ったね……。

ヒールニントの山で最初にシロちゃんに出会ったのはパステル。そして、シロちゃんはパステルの「ついてきてくれる?」という言葉で、パステルたちパーティと行動を共にすることになる。
そして最終的にも、パステルについてきてくれたシロちゃん。最終巻のライラ荘のシーン、シロちゃんの名前が出てきてほっとしてしまった。これからも、ずっとパステルと一緒にいるんだろうな。

大きくなったシロちゃんが空を飛んでいるカラーイラストがすごく好き。新11巻かな。

 

■ルーミィ

挿絵に描かれる、ルーミィのお洋服も毎回楽しみだった。

ルーミィがママと再会できたシーン、FQシリーズ史上一番泣いたシーンかもしれない。よかったと思うと同時に、パステルの冒険者としての道のりはママとはぐれたルーミィと出会うところから始まったから、嬉しくて、でも切なくて。パステルの気持ちになって、涙が止まらなかった。
そして最終巻、シロちゃんはルーミィといた方がよい、と考えるパステルに対して、シロちゃんはパステルと一緒にいてあげて、って、舌ったらずな言葉で伝えたところ。3年間ずっと一緒にいてくれたパステルのこと、ルーミィは大好きなんだな。家族のような温かいパーティにいて、ルーミィは精神的にすごく成長したのだと思う。リンネアママも嬉しいだろう。リンネアママの気持ちになったりパステルの気持ちになったり、読者は忙しい。

『闇魔』との闘い、復活した『闇魔』は仮宿としてルーミィに目を付けたわけだけど、その場には、キットンや、他のエルフもいたはず。それなのに、なぜ『闇魔』は「ダントツに魔力が高い」と、ルーミィに目を付けたのか、それは結局明らかにならなかった。はず。まだまだルーミィに関しては、明らかになっていないことがあるのかな、なんて、ちょっとわくわくする。

最終巻のラストで、ルーミィの年齢が明らかになったことが記されているけれど、よくよく考えると、ルーミィそんな赤ちゃんのときに冒険者の資格取ったんかい。よくクレイは「ルーミィも受けるんだと思った」って申し込みしたな、と、ツッコまずにはいられなかった。

例えルーミィがパステルたちの元を離れるのだとしても、ずっと離れ離れの関係はいやだなって、最終巻を読む前、思っていた。パーティ解散後、ルーミィはエルフの里でみんなに愛されて、パステルを頻繁に訪ねてきて、お祖母様たちにも可愛がられて。これ以上ない、幸せな結末だったんじゃないかな、って思う。

 

■ノル

ノルは初期から最終巻まで全く変わらなかったんじゃないかな。ルーミィの面倒を見たりパーティの荷物を率先して持ったり、とにかく優しくて頼りになる。ドーンと自分の貯金を出して、「使う機会ないから」とパーティのために差し出してくれるなんて。あまりにも良い人すぎない!?って思う。
口数少なくて、そこまで目立つことはなかったかもしれないけれど、パステルたちのパーティにとって、ノルの存在はすっごく大きかったんじゃないかな。物理的にはもちろんなんだけど、それ以外でも。重い荷物だって、文句ひとつ言わず持ってくれるし、小鳥と話ができるというノルの特技に助けられてるし。全員、ノルには感謝しかないだろうな。

それにしても、FQシリーズを読み始めてまだ日の浅い若かりし頃の私が、「大魔術教団の謎」でノルが死亡してしまったことに衝撃を受けたことを覚えてる。死者を生き返らせることのできる世界線でよかったって、心底思った。「大魔術教団の謎」は読むのが辛いのであんまり読み返してなかったかもしれない。

なんだろう、FQを読み始めた頃の私は、まだまだティーンと言われる年齢だったからわからなかったけれど、アラサーになった今考えると、ノルは本当にいい男だ。レディ・グレイス姐さんは良い目をしておられる。
ノルはこれからも変わらず、小鳥たちと会話したり、妹と一緒に平和に暮らすんだろうな。穏やかなシーンがすぐ思い浮かぶ。

 

■キットン

記憶喪失の状態だったキットンは、FQ第1巻から動きがあった。そこでゼンばあさんと出会って、自分がキットン族という種族であることを知ることから始まり、色んなことを経て、新10巻でついに妻スグリと再会する。再開したシーンの、ファンタジー感ある挿絵がとても好き。
スグリと再会してからは、もうすっかり愛妻家というか。普段の行動でも、ひとつ確固たる筋が通っていたような、そんな変化を感じた。キットンは一番、きっぱりとした意思を持った人かもしれない。だからパステルがそう思ったと同様、私も「ルーミィの家族が見つかるまではご一緒する」というキットンの言葉は、重く響いた。何事も、誰がどのような道を選ぼうが、選択権はその人にあるってわかっているのに。この時のパステルの気持ちが、痛いほどわかった。

実は36歳、パーティ最年長だということもあり、キットンは物事を俯瞰的に見ていることも多かったような気がする。キットンはまぁ、トラップのパステルへの気持ちにも気づいていただろう。だから最終巻最終章のあのシーン、キットンはスグリと一緒に覗き見していてほしい。スグリのおもしろい部分が最終巻で判明したし、もっとたくさん見たかったな。

そして、キットンで一番印象に残っているのは、新FQ「真実の王女」でのシーン。「パステルの人生はパステルのものです。でも個人的には、パーティには残ってほしいし、これから覚えていくキットン魔法をパステルにも見てもらいたい」って。(だいぶニュアンス&省略してる)自分の願望を全て嘘偽りなく、真っ直ぐと表した言葉。これが大好き。どんなこねくり回した言葉よりも、こういう率直な言葉が響くのである。

ワスレナイン私もほしい。

 

■トラップ

赤毛の盗賊。口が悪くて、ひねくれたようなことばかりするけれど、それは表面的であり、根っこの部分はとても優しい。そして、人のことをしっかりと思いやれる人だと思った。仲間のことを大切に思うからこそ、つい厳しい口調になることもあるし、状況によっては、ついおどけたようなことや、失礼な物言いをしたりすることもある。トラップはある意味、ものすごく人間らしいなと思う。
本当によく気が付くし、且つ、空気を読めるトラップ。だからこそ、例のペンダントも餞別になってしまったのだと思うけれど。 

クレイとはもはや遺伝子レベルでの親友。それと同時に、トラップにとっては、尊敬の対象でもあったんじゃないかと思う。
聖騎士の塔に再挑戦しに行くクレイについていこうとしたトラップ。「一人で行く」とクレイに言われたときは、どんな気持ちだったんだろうか。

トラップは確かに優しいけれど、パステルの言う通り、クレイとはベクトルの違う優しさ。甘やかさない、厳しい優しさ。これが、このパーティには必要不可欠なものだったように思う。組織にはこういう人が必要だ。実際、トラップのありがたみは、トラップ不在で出かけた新15巻の話でひしひしと感じた。

そしてまぁ、私はずっとトラップとパステルがどうにかなればいいなって思っていたので、そういう偏見の目があるのは否めないのだけど、パステルがお祖母様と仲直りをしようと決意できるまで強くなれたのは、トラップの持つ「厳しい優しさ」が大きかったんじゃないかと思う。

最終巻はもうほんと、別記事で吐き出したけど、がんばったなとしか。トラップの拗らせた片思いと思われたものを応援してきた身としては、とっても嬉しい。トラップ、めっちゃパステルのこと好きやん。
髪を切ったことは、やはり私には、区切り、そして決意のように思える。この先あと五悶着はあるだろうと予想しているけど、私はとにかくトラップの今後を応援したい所存。

ちなみに、最終巻を経た今、今までのFQシリーズを読み返して答え合わせをしている。パステルが半魚人にプロポーズされたこと、根に持ってるよね~とか。ペンダント、いつ渡そうか悩んで持ち歩いてたんだな~とか。
トラップの根っこの性格は変わらないものの、好きな子はいじめたくなるというただの小学校低学年男子的思考から、ちょっとずつ真剣なものに変わっていったのだろうか。成長したと思う。そのターニングポイントは、私はやっぱり「真実の王女」あたりかな、とか思ったりする。初期の巻から読み返してもう一回考えてみたい。まぁ、パステルに近づく男にわかりやすく敵対心バチバチになるところは一切変わってこなかったのだけど。

 

■クレイ

不幸体質なリーダー、クレイ。物語が進むにつれて、彼の優しさと暖かさが際立っていくように感じた。そして、頼もしさも増していった。度々、不幸が襲いがちだけど。
パーティのリーダーであり戦士なのに、第1巻ではいきなり負傷して戦線離脱。第2巻と第3巻ではオームになる、と。今考えて見ると、不憫があまりにもすぎてほんとおもしろい。クレイごめん。

ルーミィの「お父さん代わり」でなくて「お母さん代わり」なのがなんともクレイらしい。親ばか丸出しなクレイがとても好き。エプロンも似合う。

FQの結末としては、100年以上前、クレイの曽祖父であるクレイ・ジュダたちの話とも絡んでくるものだった。『闇魔』との闘いでも、彼の持つ、かつてはクレイ・ジュダが使っていたという「シドの剣」が重要すぎる役割を担ったわけで。この結末、作者である深沢先生はいつから考えていたことなのかな、と、気になるところ。
『闇魔』との闘い、パステルの体を乗っ取った『闇魔』を倒すために、シドの剣でパステルを斬らなければならなかった。とてつもなく、勇気が必要だったことだと思う。感動してしまった。クレイ、よく頑張った。

最終巻最終章、トラップとパステルの例のシーンを読んだあと、宇宙猫状態になっていた私は、クレイが竹アーマーで現れたシーンで我に帰った。いやさすがに笑う。感動の再会のはずなのに竹アーマーが気になって感動どころじゃないパステル。クレイはどこまでも不憫。それこそがクレイ。

パーティが解散してからも、6人と1匹の関係性は基本的には変わんないだろうけど(トラップは頑張れ)、最終巻ラストを読んで、クレイとパステルの関係性には変化があったような気がした。クレイは戦士且つパーティのリーダーという立場であり、パステルやルーミィを守らなければならなかった。そういった関係性だった二人が、パーティ解散後は、「何でも話せる良い友人」になった気がした。クレイが肩の荷を下ろしたような感じなのかな。
クレイとパステルは似ていると思う。二人ともお人よしで、たくさんの人に好かれて、わかりやすく思い悩むことも多い。だからこそ、共感し合えるところがたくさんあるのではないかな。
この二人はずっと良い友人同士でいることになるのだろうか。それは、とても素敵なことだと思う。

今までパーティのリーダーとして、責任感を持って過ごしていたクレイ。これからは、自分のことを考えていってほしいと思う。聖騎士の塔に挑戦して、きっと、青の聖騎士…いや、青竹の聖騎士になれる。

そしてクレイもパステルと同様鈍感だけど、早くマリーナとどうにかなってほしいと願うのみ。

 

パステ

物語の語り手であるパステルが、冒険者でありながらも特殊な能力は持たない、平凡な女の子であることが、FQ独特な魅力だと思う。彼女が等身大で紡ぐ、「いまでないとき、ここでない場所」の物語。置いてけぼりになることがなく、まるでその世界に自分も吸い込まれたかのような臨場感を味わうことができる。パステルの目線で語られる物語は、いつでも私をわくわくさせてくれた。
パステルは割とよく気が付く方だと思うけれど、自分のことは対象外。自分のことに鈍感すぎて、最終巻のラスト、トラップの悩みについて「応援したい気持ちはすっごくある」と語ったのは、読者一同総ツッコミしただろう。(私もひっくり返った)それもFQならでは。

平凡である、と書いておきながらも、火事場の馬鹿力の強さは平凡じゃない。特に、ルーミィに関して。冒険者になるために故郷を旅立ったとの日から、ルーミィを守ろうとしてきたのだから、当たり前なのだけど。一人で謎の行商人を追いかけるパステルには私もしびれた。そりゃルーミィもびっくりしてバグる。

FQの終盤、家族のように大切に思う仲間たちとの、いつか来る別れについて思いを馳せるパステルに、私はすごく感情移入してしまった。胸が痛かった。でも、パーティ解散を「後ろ向きなんかじゃなくて」と語ったパステルは、私なんかよりもずっと強く、たくましかった。

パステルは結局、唯一の肉親であるお祖母様から逃げず、仲直りをするという道を選ぶ。それは、3年間の冒険者生活で、精神的にすごく強くなったからできた決断なんだろうな。
思えば、普通の女の子が突然両親を亡くし、一人故郷を離れ、エルフの子どもであるルーミィを保護する。途中クレイとトラップに出会い、キットンに出会い、冒険者資格を取って、冒険者としての道を歩み始めた。そして、ノルに出会って、シロちゃんに出会った。パーティの財政管理を担当し、限られた金銭でいかに生活をするか、必死に頭を悩ませた。山に森に海に、あらゆるところに出かけ、様々な冒険者や、時には神様やアンデッド、ドラゴンにも出会う。危険な冒険も多々あったけれど、最終的に、ルーミィをママと再会させることができた。改めてFQシリーズを振り返ってみると、年頃の女の子の胸には収まりきらないくらいの濃い日々で、精神的にぐんと成長するには、十分すぎる環境だったように思う。(ここまで書いて、そりゃ、恋愛ごとを考えるヒマないわって思った)

パステルの成長が特に著しかったのは、やっぱりパステルが冒険者を続けるかを迷った、「真実の王女」だったのではないだろうか。
でもそこでやめていたら、あの結末は無かった。ルーミィを無事家族の元に送り届けたパステルでないと、あのようにお祖母様と和解はできなかったと思う。
色んな出来事を乗り越え、たくさんの出会いと別れを経験したパステルは、これから先ずっと、強くたくましく生きていけるだろう。最終巻の「パステル・G・キングの冒険は、まだまだ続いていく」という言葉には、そんな強さがにじみ出ていた気がした。

パステルは「家族がいない」ということに、時折不安定さと孤独感を感じていたけれど、家族のような仲間たちに恵まれ、多くの人に出会い、気づけば周りにはたくさんの人がいた。最終巻の集合イラストが、彼女が3年間で得たかけがえのない財産なのだと、思わず涙が出てしまった。
パステルはまさに、「世にも幸せな冒険者」だと思う。

苦しくてもなんでも、経験を積むことで人は強くなっていくという、至極当たり前の、でも大人になって忘れかけていたことを気づかされた。パステルと、パワーの有り余っていた頃の私に。

 

 

おわりに

私は今回、ひとつの物語、そして、ひとつのパーティの終わりを見届けたことになる。
終わりというものは、必ずしも悲しいものではない。むしろ、終わりをこの目で見届けられるということは、もしかしたら、とても幸せなことになる場合もあるのかもしれない、と気づいた。もちろん、状況にもよるのだけど。終わることに怯えて、背を向けているのは、あまりにも勿体ない。終わりの先に何があるかなんか、わからないのだから。
フォーチュン・クエストの完結を見届けた今、なんだか「終わり」というものに対して、前向きに捉えることができるようになった気がする。

6人と1匹との、大好きな冒険。寂しいけれど、同時にとても清々しく、満ち足りた気分だ。

 

深沢美潮先生、迎夏生先生、お疲れさまでした。素敵な物語を生み出してくださり、ありがとうございました。

 

私は世にも幸せな読者である。